小泉八雲とセツの山陰旅
とっとりゆかりの地
監修:小泉凡
*出典について:『知られぬ日本の面影』
を『面影』と略して表記


ラフカディオ・ハーンは1850年、ギリシャのレフカダ島に生まれました。幼少期はアイルランドで育ち、イギリスやフランスで教育を受けました。16歳で左目を失明し、19歳で単身アメリカへ移住。記者として活動し、多様な文化に触れながら、英訳『古事記』を読んだ影響で来日を決意しました。1890年に来日し、松江や熊本で教職に就き、後に帝国大学で英文学を教えました。1896年に小泉セツと結婚し、帰化して小泉八雲となります。著作家としては、翻訳・紀行文・再話文学のジャンルを中心に生涯で約30の著作を遺し、1904年に54歳で亡くなりました。
左目を失明して以来、左を向いた写真が多い。横向きではない唯一の写真(1889年頃撮影)

セツは1868年、松江に生まれました。士族没落の時代に育ち、家は困窮していきました。1891年、英語教師として来日していたラフカディオ・ハーンの住み込みのお手伝いとして出会い、のちに結婚します。ハーンは日本に帰化し、小泉八雲となりました。幼少の頃から物語好きだったセツは、ハーンの創作を支える語り部として活躍し、怪談などの作品に大きく貢献しました。ハーンの死後は4人の子を育てながら、著作管理や来訪者対応などに尽力します。晩年は謡曲や茶道を楽しみ、1932年に64歳で亡くなりました。
『八雲とその家族』
妻・セツ(右)と長男一雄(中央)。小泉凡さんの祖父にあたる一雄は、松江を離れた後に赴任した熊本で生まれた。(1896年頃撮影)

『知られぬ日本の面影(
日本瞥見記
)』
アメリカで出版された、2巻からなる来日第一作。「盆踊り」の章を含め、山陰地方の人々の暮らしの魅力を五感で観察し、「言葉の画家」と呼ばれるこだわりの文章で描写した代表作。
画像提供:小泉八雲記念館

39歳で来日したラフカディオ・ハーン(小泉八雲)。日本での最初の赴任地が島根県の松江でした。松江に向かうため、姫路で汽車を降り、人力車で犬挟峠を越えて鳥取県の大山町下市へ到着したのは、1890(明治23)年8月末のこと。そこでみた「いさい踊り」は、「自然界のもっとも古い歌と調和する美しい大地の叫び」だと感動し、翌年8月に再訪するのです。
翌年の旅には、小泉セツが同行していました。いわば新婚旅行です。大山町では木ノ根神社のご神木を仰ぎ、琴浦町へ。「私は八橋を発見しました」と、友人チェンバレンに感動を伝え、子どもたちに洗濯板のサーフィンを習い、中井旅館で愉快な時を過ごしています。賑わう東郷温泉にも立ち寄りますが、喧騒に圧倒されて、さらに東進。浜村温泉に至ります。ここでは、「出雲の女性がケルトの子守歌を歌い、女性の黒髪が地面に落ちて渦を巻く」という不思議な夢を見ます。
祖国アイルランドのケルト民族がもつ循環的生命観と山陰の人々の世界観に、共振するものを感じたのでしょう。琴浦町赤碕の花見潟墓地にも驚きます。「人力車が全力で駆けて15分かかった」と感じるほど、東西に長い海辺の墓地は印象的で、人間の魂と海との関係を考えるきっかけとなります。
この旅では、忘れられない味にも出会います。由良宿で食べた奈良漬けです。ハーンは奈良漬けのことを「由良」と呼び、晩年まで「由良が食べたい!」と、言っていたほどです。
松江に冬の訪れを告げるのは大山の冠雪。「冬の装束を纏った。ひとたび纏えば夏が来るまで脱ぐことはない」と。晩年の1902年に出版された『骨董』には、日野町黒坂に伝わる「幽霊滝の伝説」が収められています。この怪談は、異界や自然を畏怖することの大切さを示唆しています。
山陰の風土は、ハーンとセツの、生涯の宝物でした。
小泉 凡Koizumi Bon
1961年東京生まれ。成城大学大学院で民俗学を専攻後、1987年に松江へ赴任。妖怪、怪談を切り口に、文化資源を発掘し観光・文化創造に生かす実践活動や、小泉八雲の「オープン・マインド」を社会に活かすプロジェクトを世界のゆかりの地で展開する。2022年度全国日本学士会アカデミア賞を受賞。小泉八雲記念館館長・焼津小泉八雲記念館名誉館長・島根県立大学短期大学部名誉教授。主著に『民俗学者・小泉八雲』(恒文社)、『怪談四代記―八雲のいたずら』(講談社)、『小泉八雲と妖怪』(玉川大学出版)ほか。小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)曾孫。






小泉八雲は明治23年(1890年)に島根県尋常中学校へ赴任する途中、鳥取県内に立ち寄り、特に大山町下市で出会った盆踊りに感嘆したと言われている。
その翌年明治24年(1891年)8月には、妻のセツと新婚旅行を兼ねて、日本海沿い(主に鳥取県内)を何日もかけて旅しており、鳥取県内にも多くのゆかりの地があり、各地に石碑等が残っている。

1891年小泉八雲が松江赴任時に訪れた地
ハーンは赴任先の松江に向かう途中、大山町の牧野旅館(下市集落)を宿にしている。その夜、妙元寺で日本に来て初めて「盆踊り」(いさい踊り)を見学し、その情景に魅了された。(小泉八雲「盆踊り」『面影』)
- 住所
- 鳥取県西伯郡大山町下市56
- 参考
ページ - 大山町観光案内所
- TEL
- 0859-52-2502

松江に赴任する際、汽車で姫路まで来て、その後陸路で津山・湯原を経由し、関金町の矢送神社を訪れたとも言われている。「大きな神社の鳥居をくぐった所に、特異な小祠があったので、好奇心にかられて、それを探討させざるを得なかった。(中略)ただ面-天狗の面があるのみであった。」と記されている。(小泉八雲「盆踊り」『面影』)
- 住所
- 鳥取県倉吉市関金町山口447
- 問合せ
- (一社)倉吉観光MICE協会
- TEL
- 0858-24-5371


1891年八雲とセツが歩いた新婚の旅路
小泉八雲が松江への赴任途中に見物した下市の盆踊りに魅せられて、新婚旅行で再度、大山町下市を訪問した際に木ノ根神社を見物。後に紀行文の中で「眠ったような小さな村の近くで、名高い神木を見るというので足を止める。神木は小高い丘の森の中にあった…」という書き出しで、木ノ根神社を広く紹介。(小泉八雲「日本海に沿って」『面影』)
- 住所
- 鳥取県西伯郡大山町松河原221-1
- 問合せ
- 大山町観光案内所
- TEL
- 0859-52-2502

小泉八雲・セツ夫妻が新婚旅行において、人力車で移動する際に通りかかり、「霊気を感じた」、「花見潟墓地を人力車で駆け抜けるのに15分かかった」と記されている。(小泉八雲「日本海に沿って」『面影』)
- 住所
- 鳥取県東伯郡琴浦町赤碕
- 問合せ
- 琴浦町観光協会
- TEL
- 0858-55-7811

小泉八雲が新婚旅行の時に宿泊した旅館。八橋海岸すぐそばの旅館で、1989年に閉館、2009年には建物の改修が行われたものの、営業当時の面影が現在も残っている。
※友人のバジル・ホール・チェンバレン教授宛の手紙に「八橋は静かできれいです。宿屋もどこよりもよい宿です。」と記されている。
- 住所
- 鳥取県東伯郡琴浦町八橋1398
- 問合せ
- 琴浦町観光協会
- TEL
- 0858-55-7811
小泉八雲の
琵琶演奏と語り

予約
八雲が著した怪談話の紙芝居またはスライドショーにあわせ、臨場感ある語りと琵琶演奏を鑑賞。
- 場所
- 旧中井旅館で上演
- 料金
- 15名まで15,000円
旧中井旅館に滞在中、小泉八雲がセツと一緒に八橋から2kmほどある逢束まで歩いて、盆踊りを見に行っている。
- 住所
- 鳥取県東伯郡琴浦町逢束
- 問合せ
- 琴浦町観光協会
- TEL
- 0858-55-7811
新婚旅行中、東郷池の宿に長期滞在予定(1週間程度)だったが、宿が騒々しかったこともあり、1日で切り上げることとなる。(小泉節子「思い出の記」)
- 住所
- 鳥取県東伯郡湯梨浜町
- 問合せ
- 湯梨浜町観光協会
- TEL
- 0858-35-4052
新婚旅行中、浜村温泉で宿泊。「浜村で盆踊りを見ようとしたが、(コレラの影響で)警察が踊りを禁じていたため、見ることができず失望した。」と記されている。(小泉八雲「日本海に沿って」『面影』)
- 住所
- 鳥取県鳥取市気高町勝見682-41
- 問合せ
- 気高町観光センター
- TEL
- 0857-82-0829




とっとりが舞台となった八雲の怪談話
小泉セツが八雲に語って聞かせた浜村温泉(鳥取市)に伝わる昔話を再話した怪談。小さな宿屋でふとんがしゃべるという怪異が起き、宿屋の主人が怪異の原因を探る中で、ふとんにまつわる悲しいエピソードが明らかになっていく。(小泉八雲「日本海に沿って」『面影』)
- 問合せ
- 気高町観光センター
- TEL
- 0857-82-0829
小泉セツが八雲に語って聞かせた龍王滝(日野町中菅・滝山公園)に伝わる伝説を再話した怪談。気の強い女が肝試しで夜中に赤子を連れて龍王滝に行き、賽銭箱を持ち帰った際に赤子の首がもぎ取られていたという話。(小泉八雲「幽霊滝の伝説」『骨董』)
- 問合せ
- 日野町役場産業振興課
- TEL
- 0859-72-2101



漫画家にして妖怪研究家・水木しげるの人生と作品を紹介
水木しげる記念館は、水木しげるの作品世界を楽しみながら知ることができる施設です。代表作「ゲゲゲの鬼太郎」をはじめ、漫画や妖怪画などを展示しており、貴重な原画をほぼ年間を通して鑑賞することができます。
〒684-0025 鳥取県境港市本町5番地TEL: 0859-42-2171 公式サイト
怪談などを
展示
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※各3館の詳細は上記のボタンより外部リンクよりご確認ください